真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

仏のことばを読む九. 普回向  

 普回向とは「あまねく」「すみずみまで広く」という意味です。回向は廻向と漢字で記され、「振り向ける」という意味です。最も基本的な廻向とは、心を菩提に振り分けることをいいます。すなわち菩提心を発し、ひるむことなく常に悟りの智慧である菩提心に振り向けることが廻向の意味です。しかし、自分の悟りだけを目指すのではなく、他の人たちも共に菩提を目指すように願うことが大乗仏教では求められます。
 そして、自分が実践した修行や祈りや仏への供養などの善業の功徳を、他の人たちに振り向けることも廻向とされます。また日本では追善廻向といって、亡くなった人に善業の功徳を振り向け、亡くなった人が菩提を得ることを願う廻向が広まりました。すなわち、私たちが亡くなった方々の供養のために法事などを行うのは追善廻向ということになります。亡くなった方の御霊の前で経典を読誦し、真言を唱えるのもすべて追善廻向の祈りになります。しかも特定の亡くなった方のみに廻向するだけでなく、経典を読誦し真言を唱える善業をすみずみにまで広く振り向けて祈ります。それが普回向の意義です。

 ここで唱える経文は『法華経』から引用されたものです。
 「普及於一切(ふぎゅうおいっさい) 我等与衆生(がとうよしゅじょう) 皆共成仏道(かいぐじょうぶつどう)」(あまねくすべての生きとし生けるものに及び、我らと衆生が 皆な共に仏道を成就して菩提を得ますように)という祈りは、まさしく大乗仏教の根本精神を言い表しているといえるでしょう。
 
 しかし、実際に私たちは「一切に及ぼす」ほど功徳を積み、そして祈っているでしょうか。意志も弱く、煩悩が盛んである私たちは大乗仏教の理想からほど遠いところでさまよっているといえるでしょう。しかし、それでもなお祈りを捨てることはしません。過去の失敗は常に懺悔し、日々新たに発菩提心を自覚し、祈り、廻向するなら、必ずや仏はそれを受けとめてくれるでしょう。そして、私たちの祈りのささやかな功徳の力に応じて、仏の偉大な救いの力が及ぶのです。それを信じることで、私たちは心を清めることができるでしょう。

 

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