真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

仏のことばを読む四. 発菩提心 三昧耶戒の真言   その1

 先の十善戒はすべての仏教に共通した教えで、誰でも仏教の信者として必ず守ろうと誓う心構えです。それに対し「発菩提心真言」と「三昧耶戒真言」は真言密教特有の祈りの表現です。もちろん真言密教も仏陀に成るという最終目標は大乗仏教と共通します。しかし、いうまでもなく弘法大師は最終目標に至る最もすぐれた道は真言密教であると教えています。その教えにのっとり、私たちは真言を唱えて、真言宗の信心を確たるものにします。
 そのためには真言宗という名称にもなっている真言とは何か、ということをはっきり知っておく必要があります。
 真言の起源はインドの古代宗教にさかのぼります。仏教が登場する以前には、バラモン教という宗教がインドでは支配的でした。そのバラモン教では神々に祈りを捧げ、願いを叶える時に真言を唱えました。そして、真言には神秘的な霊力が秘められているので、それを唱えれば神々さえもその力の影響を受けて、祈る人たちに幸福をもたらすと考えられていたのです。このように神々さえ動かす神秘的な言葉である真言こそ、日常生活で使う言葉と異なり、真実の言葉と考えられるようになりました。そのような真言を唱える祈りが仏教に取り入れられ、密教が盛んになりました。
 この真言についての画期的な思考を展開したのが弘法大師です。弘法大師は真言という真実の言葉は、その音節ごとに仏の真実が秘められているので神秘な力を顕すと考えました。そして、一音一音に大日如来の思いが込められているとするのです。したがって真言の意味を知ること以上に、それを実際に声に出して唱えることが重視されます。私たちの理解を超えた大日如来の深い境界が真言を唱える一音一音に込められているのですから、至心に唱えることが最も肝心です。
 

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