真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

風信(かぜのたより No.84

 この世の中で生きていると、疲れやすくなる、息苦しくなることってありませんか? 仕事が忙しい、人づきあいで気をつかうとか、緊張したり、気負ったりすることがくり返されますよね。特に最近では、社会的にハラスメント(相手への嫌がらせ)やコンプライアンス(規範・法礼遵守)という言葉も耳にします。今までは何気なく使った言葉や行動でも、ハラスメントと言われてしまう。住みにくい世の中になったとか、話しかけない方がいいとか、後ろ向きの話もよく耳にします。ハラスメントやコンプライアンスが怖くて、気ままにふるまえない。確かにそういう気分になることもあるでしょう。でもそれは、相手のことを考えてこなかった、周りへの配慮に欠けてきたということでもあるのでしょう。月並みな言い方ですが、やさしさが足りないということでしょうか。
 

 周りへの心配りもそうですが、この際、あなた自身へのやさしさにも目を向けてみませんか? あなたの心と身体、そしてあなたの内面も見つめてみてはいかがでしょう。数年前にメディアからは♪ありのままの~♪というフレーズの音楽がよく聴こえてきました。映画「アナと雪の女王」の主題歌です。ありのままに生きられたら、どんなに良いでしょう。気負いもストレスも感じなくてすむ。でも好き勝手にするのと、ありのままの心で生きるのはちょっと違いますね。この「ありのまま」って一体どんなものなのでしょう? 仏教の教えは、人の心が何なんだろうと考え、極めようとする教えです。そして人の心が苦しむのは、煩悩や執着によるから……。さらに人の心の苦しみを取り除けば、心は安楽になると説きました。つまりそれが仏さまの境地ということです。およそ2500年前に仏教を開かれたお釈迦さまは、苦行を捨て、疲れた身体を休めた後、瞑想して悟りを得ました。
 

 こうした瞑想法は今もなお、脈々と受けつがれています。真言宗では宗祖弘法大師空海が説いた瞑想法「月輪観」「阿字観」を弟子が記したテキストがあります。月輪観はお月さまをイメージする瞑想で、月の満ち欠けを心の様子に重ね合わせます。月の輪を自分の心の中に描き、それを呼吸のたびに大きくする。それを無限にまで拡げる瞑想です。阿字観は大日如来を象徴する阿字をイメージして、その大日如来という仏さま(真言密教の教主)と向き合い、観じて、仏さまと一体になる瞑想法です。その刹那(瞬間)は仏さまに成ることを目指します。
真言宗の経典『大日経』には「如実知自心(にょじつちじしん)」という言葉があります。実の如く自心を知る。自分の心をありのまま、そのままに知る。そうすれば、仏さまの心に成る。仏の教えは自分の心を見つめるやさしい教えです。
 

風信(かぜのたより)一覧