真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

風信(かぜのたより No.82

 願いが叶うように祈ることが最近ありましたか? 「幸せになりますように」とか「家族が無事でありますように」「仕事が順調に進むように」他にも試験や就活、婚活が上手くいくようになど、人の願い事はずっと昔からキリがありません。あれも欲しい、これも欲しいと願うことに際限のない人間だから、仏教を開かれたお釈迦さまも「生きることは苦である」とおっしゃったのでしょう。この数年は「新型コロナウイルス感染」がおさまりますように、病気が治りますようにと数多の願いもあって、仏さまも人の願いを叶えるために一生懸命だったでしょう。
 仏教が日本に伝えられて千数百年、日本にお祀りされた仏さま、お寺のご本尊さまは、そうした人の苦しみ・悩み・願い事に応えて、無数の“さ迷える衆生”を救ってきました。人の祈りには大きく二つあります。一つは今生きている人の願いが叶うように、もう一つは今は亡き人の冥福を心より祈ります。
 

 願いを祈るには何をしたら……いいのでしょう? 
 祈る方法は今も昔もさして変わらないと思います。仏さま、ご本尊さまの前で手を合わせ心に念じる。祈る時にお経を読むのはもっと良いかも知れません。吉祥院には檀信徒の方が唱えやすい『勤行聖典』があります。お家の仏壇で、菩提寺のご本尊さまの前で拝むならさらに良いでしょう。
そして、ずっと昔から今も脈々と受け継がれているものがあります。それが写経と写仏です。お経を書写したり、仏さまのお姿を写します。ご自身が書写した写経・写仏には、願意(願い事)を書き記し、願主(自分の名前)も添えます。願意の代わりに亡き人の戒名を記して冥福を祈ることもできます。自身の書写したお経や仏さまは、お寺へ持参して納めて、ご祈願またはご回向して頂きます。願い事を叶えるのは祈願、ご冥福を祈るのは回向(供養)です。
 

 仏さまの言葉、その姿を書写するとどうなるのでしょう? お経には仏さま、お釈迦さまの説いた教えがつづられています。つまりそれは「仏のことば」です。その仏のことばを自らの手で書き写せば、自分の手から「仏のことば」を実感することができます。むずかしい漢字の意味をすぐに理解はできなくても、写経することで仏さまの息づかい、温もりが感じられて、いつの間にか、ありがたい気持ちになるのです。同じように、そのお姿を自分の描く線で仏さまのお姿にしていくと、仏さまを直接、体感することができるようになります。
 自分の願いを叶えるため、また亡き人の冥福を祈って、心を込めて仏さまのことばを書き写し、そのお姿を描く。仏さまを感じながらの心を込めたあなたの行為が、自らの心を養い、祈りは仏さまに通じることとなるのです。
 

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