真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

風信(かぜのたより)No.46

 彼岸と此岸の境目には何があるのでしょうか? 今いのちある私たちの魂と、今は亡き人の魂は何によって隔てられているのでしょう。彼の岸と書いてヒガン、此の岸と書いてシガンです。あの世とこの世、さらに別の言い方をすれば、仏さまの世界と衆生の世界。衆生とは生きとし生けるもの、いのちあるものすべてです。さてそこで、彼岸と此岸の境には、三途の川があります。
 お檀家さんのご家族のどなたかがお亡くなりになって、通夜・葬儀式を済ますと出棺前に「最後のお別れ」のためにお花を棺に手向けます。きれいな花々に飾られて亡くなられた人は荼毘に付されます。そのお別れのためのお花入れに際して参会者に必ずお話しします。「お亡くなりになられた故人は、引導を授けられて仏と成りました。迷わず成仏されたのです。そしてこれからは、三途の川の向こう岸、仏さまの世界である彼岸から、いつも私たちを見守ってくれるのです。
 
 彼岸(仏さまの世界)とはどんなところなのでしょう? そこにいると心には何一つ苦しみを感じることがない、心安らかで穏やかになる。極楽の世界、つまり楽が極まれるところ。いつも安楽でいられる世界だそうです。仏教を信じる人たちは、遠い昔からこの悟りの世界、極楽浄土にあこがれてきました。そして、皆さんはその極楽浄土を見ることが叶うのです。お寺には極楽浄土が再現されています。つまり、お寺はご本尊さまがお祀りされていて、そのご本尊さまの極楽浄土をビジュアル化したものなのです。お寺は極楽浄土を現わしたもの、参詣者が仏さまの浄土を目にすることが叶う、それを拝むことができるところなのです。
 吉祥院のご本尊は毘沙門天です。ご本堂に入れば、そこは毘沙門さまの浄土ということになります。そして毘沙門さまを拝めば、大切なものを悪しきものから守るというご利益があります。
 人は死んだらどこへ行くのでしょう? 菩提寺のあるお家はもう決まっています。それが霊園にお墓を持っている人との違いです。菩提寺のあるお家のご家族がお亡くなりになれば、菩提寺のご住職がお葬式の導師を務めます。お戒名をいただき、引導を渡されて、2500年前から脈々と伝えられてきた仏の教えを授かって仏さまに成ります。つまり仏さまの世界、彼岸へ行くわけです。つまり菩提寺のあるお檀家さんは、仏に成る(迷わず成仏する)ことが約束されているのです。
 菩提寺はその土地に住む人の心の支え、よりどころとなる存在です。その地で最も聖なる存在。そして菩提寺のお檀家さんは亡くなられたら、菩提寺のご本尊の浄土へ行くのです。だから、生きている時から菩提寺に親しんで欲しい、菩提寺の年中行事に参加して、仏さまの世界に触れて下さい。そうして生きている内から心に安楽を感じて、自分らしい余生を過ごしてみましょう。
 

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