真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

劉希夷


 劉希夷は、中国の唐の時代に活躍した詩人で、字を廷芝(ていし)と言います。七言古詩の形式による詩を得意とします。また、女性の心理を詠じることに巧みだったとも言われています。
「来る年ごとに、花は同じように咲き匂うけれども、来る年ごとに、これを眺める人は移ろいかわってゆく……」
この詩には、自然の中に生きる私たち人間の姿と、時の流れが巧みに表現されています。
 自然の流れは、時に、人間にとって冷たく無情に映ります。でも、それは、私たちに時間を惜しむ感情が高ぶっている時なのかも知れません。自然の流れや時間は、何ものにも左右されることなく、いつも通りに、当たり前に過ぎ去って行くものです。そうして過ぎ去る時間に、移りゆく風景に思いをはせてしまうから、人は弱く悲しい存在と言えるのかも知れません。
 どんなに合理的に、楽に、物事が解決できるようになっても、私たちがモノでなく人である限り、喜怒哀楽という豊かな感情がある限り、この詩【言葉】に込められた想いは、いつの時代でも流れ続け、語り継がれるはずです。だから、過ぎ行く時を惜しみ、花鳥風月(かちょうふうげつ)を愛でる人たちに「ただ、優しくあれ……」と祈りたくなるのです。

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