真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

ダライ・ラマ


 これまでに「リトル・ブッダ」「セブン・イヤーズ・イン・チベット」などの仏教を題材としたアメリカ映画が話題となりました。アメリカでは、空前の仏教ブームが続いています。そこで最も注目されている人物のひとりが、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマです。数年前、アメリカのセントラル・パークで行われた集会には、ダライ・ラマの話を聞くために、数万人が集まったとニュースで報じられていました。
 そのダライ・ラマが、かつて日本を訪れて、各所でそれぞれ数千人を前に、精力的に仏の教えを説かれたそうです。東京・浦安の東京ベイNKホールでの二日間にわたる講演では、仏教・チベット密教の真髄を明解にわかりやすい言葉で話されました。参加者との対話の時間も取って、質問にも身を乗り出すほどに耳を傾けて、身振り手振りを交えて、やさしい表情で応えられていました。
 こうしたダライ・ラマの活動を、多くのメデイアが取り上げました。その中で、京都の講演における参加者との対話で、印象的な場面がありました。ある少女が「私は自閉症で、人と接することが上手く出来ません。そのように他人と接することが苦手な人間をどう思いますか?」と質問しました。それに対してダライ・ラマは、その子を真っ直ぐに見据(みす)えて「人間には、誰にでも良いところがあります。自分にも、そして、他人にも。その良いところをしっかり見つめなさい。」と言葉をひとつひとつかみし締めるように語りました。その後で、ダライ・ラマは、その少女を壇上に招き、やさしく抱きしめて「ドント・ウオ―リー【心配しなくていい】」と一言だけささやいたそうです。その瞬間、少女の表情がおだやかになったことが忘れられません。
 人間の可能性を何の衒(てら)いもなく信じられる。人間の素晴らしさを当たり前に語ることが出来る。ただの一言、一瞬の行為に込められた心持ち。私たちも、まわりの人に自信を持って語れることがあるといいですね。ダライ・ラマの言葉は、私たちに、勇気と可能性と、やる気を起こしてくれる気がします。

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