真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

千利休


 今日の茶の湯、茶道のおおもとを確立したのが、千利休と言われています。利休は弟子から「茶の湯とはどういうものか?」と問われた時に、「茶は服のよきように点(た)て、炭は湯の沸(わ)くように置き、冬は暖かに夏は涼しく、花は野の花のように生け、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ」と答えました。「それは良く存じております。」と弟子が言うと、利休は「もしそれが十分にできたなら、私はあなたのお弟子になりましょう」と言ったそうです。後にこれが利休七則と称されました。「服」は飲むことで、「服のよきよう」は「ちょうどいい加減」を意味し、「相客」は「同席した客」のことです。
 利休にとって茶道とは「和敬清寂」、つまり「互いに和して敬いあい、清らかで静かなひとときを心に感じて過ごす。」ということになるでしょうか?こうした心持ちを実現するために、この当たり前と思える七則を示したわけです。
  もてなしの心、侘(わ)び寂(さ)び、客のために出来る限りの心配(こころくば)りをつくす。凝縮された、たった二畳の空間にある道具(掛軸・茶碗・花瓶等)に思いのすべてを込める。これ以上の心の贅沢はないと言えるでしょう。
  大切な人、かけがえのない人……いま、夫、妻、親、子供、兄弟姉妹、友達に、どれだけこの和敬清寂の心で接することがあるのでしょう?騒々しくご馳走を食べるだけのお祝いごとも楽しいには楽しいけれど、時に、静かに流れる時間の中で清らかな心を持って、愛情を込めてあなたの大切な人をもてなすひとときがあってもいいですよね。普段から……一緒にお茶を飲む時、買い物のついでにちょっと散策する時、どんな時でもこんな気持ちで、互いの心を通わせたいものです。

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